キーワード解説

工場の生産性を向上させる予知保全

スマート工場にXR、ローカル5Gなど、DXで大きく変わる製造業。その姿を正確に掴むために必要なキーワードを一挙に解説。第6回目は、「予知保全」について解説します。

人手不足が深刻化するなかで、製造現場では、多くの自動化設備が導入されています。人間と違い、休まずに稼働し続けることができることが大きなメリットですが、その反面、このような設備が突然故障してしまった時の影響も大きくなります。このような事態を避けるために、注目されているのが、IoTを活用した予兆保全です。従来の、予防保全とどのように違い、どのようなメリットがあるでしょうか。

定期的なメンテナンスと耐用年数にもとづく予防保全

生産設備や機械の故障・停止を予防するための手法として、部品ごとに耐用年数や耐用時間を定めておき、一定期間使用後、たとえ故障していなくても交換するというやり方があります。これが、予防保全(Preventive Maintenance)です。家電でも、例えば、冷蔵庫を10年使ったらそろそろ買い替えの時期だ、などと計画をたてることがあるように、製造設備においても、メーカーが定める耐用年数があります。また、これまでの経験から、5年程度で交換が必要、というようなノウハウを得ている場合もあるでしょう。こうした基準に基づいて、設備が故障していなくても交換することで、故障の可能性を減らすことができます。また、設備を止めて部品を交換する作業を、計画的に実施することができるため、機器や設備の停止を最小限に留められることもメリットです。時間を基準にしてメンテナンスを行うことから、時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance)と呼ばれることもあります。

予防保全という考え方が生まれる前は、故障が発生してからメンテナンスを行う事後保全(Reactive Maintenance)という手法が一般的でした。しかし、事後保全では、予期しないタイミングで設備を止めてメンテナンスをする必要があるため、生産計画に大きな影響が生じます。また、実際に故障した後の対処では、メンテナンスにもより多くの時間がかかってしまいます。事後保全と比較すると、予防保全には様々なメリットがあることが分かります。

しかし、20年経っても問題なく利用できる冷蔵庫もあれば、5年で故障してしまうものもあるように、耐用年数はあくまでも目安です。製造現場の状況が違えば、当然ながら、設備や機械の摩耗状況や故障の可能性も異なります。一律に予防保全を行うことで、実際にはまだまだ使い続けることができる部品を交換してしまったり、逆に、通常よりも劣化が早い部品が故障するのを見逃してしまう可能性があります。計画的にメンテナンスを実施できる、というメリットの裏側には、このようなデメリットがあるのです。

 

IoTを活用した予知保全

このデメリットを解消する新しい手法が、IoTを活用した予知保全(Predictive maintenance)です。予兆保全と呼ばれることもありますが、工場内の設備に設置したセンサーなどのIoT機器からデータを収集し、そのデータを分析することで故障の予兆を見つけ出し、故障する前に保全を行うというやり方です。時間ではなく、個々の設備の実際の状況に基づいてメンテナンスを行うことから、状態基準保全(CBM: Condition Based Maintenance)とも呼ばれます。

それぞれの設備の状況に応じてメンテナンスを行うため、まだ使えるのに交換するようなことはありませんし、耐用年数がまだ残っているから、と故障の予兆を見逃すこともありません。「製造業におけるデジタルツインの活用法とは?」で紹介したように、メンテナンス対象の設備や機器のデジタルツインを作成し、仮想空間上で予知保全を行うことも可能です。

予知保全では、故障の可能性が高まっていると判断された設備や機器からメンテナンスを行っていくため、メンテンナンス人員の作業の効率化や負担軽減にもつながります。予知保全を効果的に実施するためには、どのようなデータを分析し、どのような設定で保全の警告を出せばよいのかを適切に設定する必要があります。近年は、AIによる機械学習を活用し、人間が分析するよりも高精度で故障の予兆を検出できる仕組みが登場し、予知保全の導入や運用のハードルが下がってきています。経産省が「AI導入ガイドブック」を発表するなど、政府も、製造業におけるAIを活用した予知保全の普及を後押ししています。

 

状況に応じて予防保全と予知保全を使い分けることで、最適なメンテナンスを実現

このように、メリットが大きい予知保全ですが、予知保全を導入すれば予防保全が不要になるわけではありません。予知保全を導入するためには、IoT機器の設置などの費用がかかります。設備の部品が安価で、メンテナンス作業も簡単なものであれば、予防保全の方が総合的な費用対効果は高くなります。また、データを取得することが難しい、あるいは、故障の予兆となる閾値を決めることができないような場合は、予防保全が必要です。予防保全と予知保全を組み合わせ、工場の生産性を高めていくことが、これからの製造業にとっての重要なポイントといえます。