知っとこ!製造業

スマート農業への対応が加速する農業機械業界

一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第10回目は「農業機械業界」を解説します。

農業機械市場は、コロナ禍から回復

2021年の農業機械出荷額は、前年比17.5%増の4728億1700万円だった。2020年はコロナ禍の影響もあり3年ぶりに減少となったが、力強く回復しコロナ前の水準を上回る結果となった。日本の農機で市場規模が大きいのはトラクター、田植え機、コンバインの3種類で、中でもトラクターの出荷額が、農機全体の6割を占める。国内で、トラクター、田植え機、コンバインを扱うのは、クボタ、ヤンマー、井関農機、三菱マヒンドラ農機で、この総合メーカー4社で、農機生産金額の約8割を占めるという。

日本の農業の構造的変化で、農業機械に求められる要素が変化

国内では、就農人口の減少と高齢化によって耕作放棄地が増加している。自営農業就業者は、2000年の約400万人から2020年には136万人にまで減少した。高齢化も進み、自営農業就業者の平均年齢は約68歳だ。このような状況を受けて、国は農地の集約化を推奨しており、農地を集積、集約化することで、農業の効率化と生産性の向上を図ることが狙いだ。実際に、離農した農家から農地を委託されて事業規模を拡大する担い手農家の営農規模も増加しており、全耕作面積中、5ヘクタール以上の規模の担い手農家が耕作する割合は、2005年では約43%だったが、2023年には約80%になると予想されている。このような構造的な変化にともない、トラクターや田植機などの農機に求められるものも変化しつつある。担い手が大規模化すれば、農機にも大型化と高能率化が不可欠であり、また、新規参入者が増えてくれば、未熟練者でも扱うことができる農機が必要になる。

スマート農業を支えるスマート農機

こうした変化を受け、主要メーカーは、IoTを活用して農作業をサポートするソリューションと、それに対応するスマート農機を続々と市場に投入している。例えば井関農機は、農機の稼働データや作業データをタブレット端末やスマートフォンで表示する、「ISEKI アグリサポート」を提供している。対応する農機からデータを収集し、肥料や薬剤散布の管理や圃場の作業管理などを効率化し、コスト削減や農作物の品質安定を実現する仕組みだ。ヤンマーでも、同様に農機からデータを収集し、大規模経営のデータ管理を一元管理するサービス、「SA-R(スマートアシストリモート)」を提供している。担い手農家が管理する農地の多くは、小さく分散しているため、その管理には手間がかかる。日当たりも違えば土壌の状態も異なる農地ごとに、最適な水やりや施肥を工夫する必要がある。効率的な管理を行うためには、このような営農支援ソリューションが不可欠なのだ。

こうしたソリューションの進化に合わせ、農機のスマート化も加速している。井関農機が開発した可変施肥田植機には、超音波センサーと電極センサーの2種類のセンサーが搭載されている。これにより、田植えをする土壌の肥沃度を測定し、田植えと同時に、土壌の状態に応じた施肥を行うことができる。クボタは、収量&食味センサーを内蔵したコンバインを提供する。収穫した稲や麦の籾に光を当て、透過光センサーで水分やタンパク質の含有量を計測して表示する機能で、収穫と同時に品質や食味を判別できる。また、水分量のデータを活用し、籾の乾燥作業を効率化することも可能だという。さらに、このコンバインにはGPSも搭載されているため、どの農地からどのような品質の米が、どのくらいの量、収穫できたかを可視化し、翌年の施肥計画に反映できる。クボタが提供する営農支援システム「KSAS(クボタ スマート アグリ システム)」を利用すれば、このような作業を自動で行うことが可能だ。

さらなる自動化の実現に向けて

2022年時点で実現している農機の自動化のレベルは、農機に人が搭乗しなくても、直接目が届く範囲での自動運転が可能というものだ。これは、自動運転の「レベル2」に相当する。各社は、遠隔監視のみで、基本的に全ての操作が自動で行われる「レベル3」の自動運転の実現を目指し、研究開発に注力する。クボタは、2020年、さらなる自動化の実現に向け、NVIDIAのエンドツーエンドAIプラットフォームを採用し、同社と農業機械のスマート化に向けて協業することを発表した。2021年には、農機などの自動運転技術を開発するカナダのアグジャンクションを買収するなど、“完全無人農機”の実現に注力しており、自宅の車庫から公道などを通って自分で農場に向かい、作業を始めて帰ってくる農機を、10年以内に実現することを目指しているという。

スマート農業の加速とともに、農機業界も、これまで以上に、最新技術やノウハウに対応していくことが求められる。農機業界の取組みが、農業の未来をどのように変えていくのか、注目だ。

 

関連する業界団体

日本農業機械工業会:http://www.jfmma.or.jp/

日本農業機械化協会:https://nitinoki.or.jp/