和道場

『お茶と権力 信長・利休・秀吉』出版記念対談  茶人田中仙堂×トレジャーデータ株式会社 取締役 堀内 健后氏【後編】

『お茶と権力 信長・利休・秀吉』に対しては、ビジネスマンに役に立つとの感想も寄せられています。今回は、「データ解析の世界をシンプルに、データでより良い世界を」をコンセプトに注目を集めているトレジャーデータ株式会社の取締役堀内健后氏(写真:右)をお招きしました。トレジャーデータ社の得意とするデータ管理という視点を切り口にして、茶道とビジネスの接点を探っていきます。本対談は、前編中編、後編の3篇に分けてお届けします。

お茶にはビジネスに活かせるエッセンスが盛りだくさん

堀内:武将の視点から、茶道をどう取り込んで政治に生かしていくかというお話を伺うと、今のビジネスと同じだと感じます。武将がお茶会をするのは、例えば私がゴルフにお客さまを連れて行くとか、セミナーに招待するのと同じです。このように、現在のビジネスに通じるところが多い茶道が、「高尚な文化」として、敷居が高いものとみられているのは非常にもったいないと感じます。お茶について深い知識がない人でも、気軽に体験できて、文化交流ができるような場があれば、お茶文化の裾野も広がっていくのではないでしょうか。

田中:そうですね。お茶の要素を上手く取り入れながら、広げていけると良いと思います。我々は、どうしても型を教えますから、それが絶対であるという風に思われるかもしれませんが、そこからエッセンスを学び、自分はこれをこう利用するよというような使い方はどんどんやっていただきたいと思っています。信長や秀吉だって、これをやったら、利休に叱られる、なんてことは考えていなかったはずです。

テクノロジーが進化しても変わらない本質

堀内:先生にそう言っていただけると非常に心強いです。テクノロジーが進歩して、これからのお茶がどのように変化するかを考えてみると、一つの形として、バーチャルでのお茶会というのは出てくるでしょう。一方で、実際に会って一服いただけるという世界観の方は必ず最後まで残るし、より重要になってくると思います。今、テレワークが進んで人と会う機会が少なくなっているので、ますますこのように感じるようになりました。

田中:結局は、お茶会に何を求めるかというところに尽きます。ある種の美術鑑賞の場であると考えるならば、バーチャルの方はアップで見られて良いという面があります。ただ、人間的な信頼とか共感を深めたりする場であるならば、それは絶対にリアルでなければいけないと思います。

堀内:その通りだと思います。コロナ禍となり、このような価値が非常に明確になったと思います。昔は、何かあればちょっと飲みに行くなんていう形で気軽に交流できたので、そこまで考える必要がありませんでしたが、今は、リアルな交流の場の必要性を感じている人は多いと思います。

田中:この人にお茶を点ててもらって良かった、自分のことを考えてくれてありがたい、というような感動を与えるようなパフォーマンスやコミュニケーションは、今後ロボットが進化して、熟練者の動きを再現できるようになったとしても、代替できないでしょう。

堀内:AIを使って、その日の気分に合わせてお茶が出てくるという製品もありますが、それも人の感情を考えたコミュニケーションを目指そうというところだと思います。本当は、先生にお茶をたてて貰うのが一番ですが、100万人が先生のお茶を享受することはできない。その部分をAIで補うということだと思います。

茶会は、組織の垣根を超えた交流の場

田中:お茶とビジネスというところでは、明治時代の財閥がお茶を盛んにやっていたという話があります。経済史の先生が出席者を分析したところ、様々な会合の中で、財閥の垣根を超えて交流が多いのが茶会でした。通常であれば、三井は三井で、というように固まる傾向にありますが、茶席においては財閥の垣根を越えて人が集まった。それがお茶の魅力だったのです。

堀内:それは非常に大きいですね。我々の仕事も、実は仕事以外の場所で知り合った人と意気投合して仕事をするとか、紹介をお願いして仕事を作っていくということが非常に多いのです。また、仕事上の利害関係がある方と、趣味の世界で、利害関係の無い別の交流ができるというのも大きなメリットだと思います。お茶にこのような側面があることを伝えていけば、ビジネスマンももっとお茶に興味を持つと思います。また、交流が目的であれば作法についてはあまり煩いことはいいません、ということなら、お茶を敬遠している人のイメージも変わっていくではないでしょうか。

田中:それは大切なポイントです。大日本茶堂学会という茶道流派の会長としては、自分たちの流派の人を増やしていくことも考えなければいけないのも事実ですから、作法を学びたいという人がいてくれることも必要になります。しかし、公益財団法人三徳庵の理事長としては、一流派の利害以前に、お茶という文化が日本人にとって大切なものであり続ける環境を維持することが重要だと考えています。

お茶文化の裾野拡大に向けて

堀内:スタートアップコミュニティや若手経営者には、お茶は自分とは関係ない高尚なものだと考えて、食わず嫌いになっている人が大勢いると思います。そういう人に、今日伺ったようなお話を伝えることができれば、彼らは興味を持つと思います。目的に合わせて、茶会のスタイルを変えていくことで、より幅拾い層にアピールできるようになるでしょう。

田中:本格的にやりたい人向けには本格的な場を、また、自由にやりたいという人にはそのような場を作れると良いと思います。そもそも文化は皆のものです。文化には色々な要素がありますから、いいとこ取りができれば良いのです。最後にあまり好きではない部分がちょっと残ってしまうかも知れませんが、この部分から食べていきたい、美味しいところから食べていきたい、という風に進めていければ良いのでしょう。また、このような新しい動きを進めるときには、外部の方に主導してもらうのが有効だと考えています。どこかの流派が何かを作ったり始めたりすると、その流派でしか使われないということがあります。そういう意味では、堀内さんのような、第三者の役割が非常に重要なのです。

堀内:茶道は敷居が高いですが、抹茶の食品はたくさんあります。ですから、お茶が好きな人は多いはずだと考えています。外部の第三者の視点から、上手くお茶のさらなる普及促進に向けた動きを作っていけたらと思います。本日はありがとうございました。

田中:ありがとうございました。